Sex industry
ここでいうフーゾクの広告とは、1990年代初め、主にスポーツ新聞に掲載されていた性風俗営業の広告を指す。
雑誌『宝島』(宝島社)の1994年1月9日号で、「セックスというお仕事にアマチュア女性大量進出!!」という特集記事があった。そのうちの2ページにわたって、「初心者だって安心! 親切ガイド フーゾク広告の読み方教えます」という記事があり、14のフーゾク店の広告が紹介されていた。これらの広告にあった、わかりづらい業界用語(“性風俗用語”?)なるものがユニークに解説されていたのである。
そのうちのいくつかを挙げてみよう。
① 王道
プラチナ。イメクラ系の王道。豊富な妄想シチュエーションのメニューから、お客は好みのプレイを選択できる。「淫乱お嬢様の究極逆夜這い」なんて、言葉尻は完全に妄想の世界に陥っているが、女の子の出張プレイだと思われる。バーチャルスマタというのは、単にスマタのことであって、騎乗位で女の子が男性のペニスを股にはさんで本番さながら…が体験できる。拘束カズノコフィンガーは、男性が拘束され、いろいろなモノでさわられるというプレイ。たっぷり50分16,000円。
② 暗号
白衣の診察室。こちらもイメクラ系。医療プレイ専門店。婦人科台で浣腸・肛門・導尿P検といった羞恥治療プレイが激しい。エタ殺菌済とは、衛生上、使用する器具はエタノールで殺菌していますという意。たっぷり60分で16,000円。
③ 期間限定
五反田のラ・ヴィアン。これも同じイメクラ系のSMクラブ。本格派だそう。ややお高い料金で、プレイの執拗度も高そうだ。自宅・ホテル出張可。本格縛りが2時間、なんと80,000円。Sプレイ70分で30,000円。Mプレイ80分で20,000円。Mプレイのほうが若干時間が長くて安め、というのはなんとなくわかる。本物の母乳プレイは要予約制で50分20,000円。
④ タイマン
日暮里のスケバン倶楽部Z。スケバン専科といったところ。これはなかなかマニアックなイメクラ系。女の子はセーラー服姿で相互リップ無制限でアナルも責められ、ハードキスの攻勢。かなりきつそうなプレイ。相互リップとは、69のこと。タイマン、リンチコース有で、60分18,000円、70分で20,000円。
⑤ 大人のサークル
オリーブ、はまなす、綾、喜らく。会員制大人の集いだとか、会員制大人のパーティなどとあって、こちらは比較的穏やかな大人向けのサークルか? と思うかもしれないが、とんでもない、乱交パーティーである。以前はビデオ鑑賞会と称していたらしいが、摘発されたので、名称を変えたらしい。
⑥ キテレツ系
池袋のアリサ。マッサージ系。業界初、とあるが、何が業界初なのか? 幸運性感マッサージというのは、要するに本番のこと。普通性感コースは70分で16,000円~。幸運性感コースは80分で24,000円~。となりの大塚のほうに、美乳Tバック相撲とあるが、これは、Tバックを穿いた女の子と相撲を取るプレイ。
⑦ ニューウェーブ
大塚のグレース美療。アナルなめ専門店。これも性感マッサージの一系統。裏スジ、玉なめ、アナルなめ集中口撃。需要がとても増えていたらしい。
⑧ インターナショナル
新宿の国際美人。24時間営業のホテル出張専門。若い娘ばかりで、スリム、グラマー、50名ほど。3POKとも。アナルセックスでもなんでもOK。
⑨ カルト系
渋谷のおでぶの館。渋谷の大柄美人。渋谷~目黒のでぶの宝庫。要するに太め系の女の子でホテル、自宅出張。でぶの宝庫さんでは、70代までの太めさんを募集していたらしい。はて、需要があったのかどうか。
このページの解説者である“フーゾク広告鑑定業”なる人物、イトウ氏はこんなことを述べている。今は不況のど真ん中ということもあり、《かつてはソープ、ヘルスにピンサロ、ホテトルなんてのが“風俗四天王”でしたが、今どきそんな旧態依然とした業種じゃ客は集まりません》とのこと。ニーズが多様化してきているので、業界内で日々、商品開発に励んでいたこの時代の多様化が垣間見える。
また、イメクラ系に関しては、こんなことも。《もともとマンションヘルスのオプションだった『夜這いプレイ』が原型なんだけど、客の需要によって大きく変化してきたですよ。つまり、昔は風俗のサービス=本番。法律を破る過激さのみが求められてたのが、最近のトレンドは射精の方法より射精以前のプロセスがサービスとして工夫されるようになってきた》。
雑誌『宝島』のこうした特集記事は、謎めいていて敷居が高かった性風俗業の全体像を易しくレクチャーし、新たな客層の呼び水ともなった感がある。そのいっぽうでは、風俗営業店において、性病のリスクがたえず潜んでいるが、それに関する注意喚起は雑誌の中でとくに見当たらなかった。
遊び放題はご用心、と私はいいたいところだが、90年代の男性優位のノリでは、“アマチュア女性大量進出”と見出しにあるように、まさにセックス産業の実態をさらけだしているようにも見える。働く男性志向の、その大義名分としての性風俗エンターテイメントは、とてつもなく大きな代償をはらんでいることに気づくべきである。