極秘ビデオの広告

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Absolute secrecy video

 
 

『宝島』1998年12月23日号。表紙は来栖あつこさん

 
 これはいったい何?――という昔のアダルト系の謎めいた広告を二つばかり紹介したい。
 その前に、その広告が掲載されていた雑誌『宝島』(宝島社)について書いておく。
 

『宝島』はもとサブカル系雑誌だった?

 当サイトの「基礎知識編」の記事「フーゾクの広告」でも登場した、雑誌『宝島』。なんと創刊は、1973年7月10日とのこと(※当時は『WonderLand』という誌名で晶文社刊)。2015年8月25日の休刊まで、42年の歴史を持つ怪物的雑誌だった。総発行部数はいったいどれほどだったのだろうか。
 
 今となっては知る人ぞ知る雑誌『宝島』。もともと、マニアックなサブカル系雑誌であったのだ。しかし、42年を誇る歴史の中で、それぞれの時代において、部数伸び悩みの苦境を乗り越えるべく、中身のコンセプトを実に様々変えてきた経緯がある。
 

映えるヘアヌード。モデルは草凪純さん

 
 もと男性向けサブカル系だった内容を、1990年代に大きく転換し、アダルト系情報誌として一世を風靡した。ヘアヌードのグラビアのオンパレード、芸能人・有名人のゴシップ記事、今では誹謗中傷や名誉毀損、ハラスメントとも受け取られかねない危なっかしいエロネタ記事。それから、なんといっても風俗やアダルトビデオ関連の情報。ビジュアルに限らず、意外と興味津々の範疇だったのは、女性アイドルのエンタメ情報…。とはいえ、この期の『宝島』に登場する女性モデルたちは、ほとんど水着ヌードであった。
 
 若者にとっては、たかだか400円程度の小銭で、毎号エロが楽しめたのだから、その人気は計り知れないものだったはずだ。この雑誌そのものが、いわば90年代の若者文化の隠れたトレンドだったかもしれない。その点、しばし男性至上主義の罪深さをも内在していたことになる。
 男たちの、捨てがたい悦楽本――それが『宝島』だった。団塊ジュニア世代の私がこの本をよく買っていたのは、まさに20代でドンピシャだった90年代。アダルト系に転じていた頃の『宝島』だったのである。
 

有名芸能人によく似たモデルが脱いでいたというだけの話


 若者たちがアダルト系で燃えたぎっていた頃の、『宝島』。私の周囲の友人たちは、大抵いつも『宝島』を買っていたし、プライベートで読み耽るセクシュアルな本としてそれは常に謳歌していた。ヘアヌードで煽られ、アダルトビデオ(エロビデオ)の情報にときめき…。若者たちは欲望が満たされるまで、この雑誌にしゃぶりついていたのだ。そう、まさにこれを買わずしていられるかといったくらいの中毒性を秘めて…。
 若者男性の欲望を掻き立てていた雑誌『宝島』――。90年代の『宝島』は、エロい内容で一世を風靡し、過激の一途をたどっていた。
 

当時は本当にOLが脱いでいたと信じていたが、果たして…

 

これは序の口「モザイク除去機」の通販広告

 私がいま手にしているのは、隔週水曜刊だった『宝島』1998年12月23日号である。表紙のモデルは来栖あつこさん。
 
 この本を開くと、いきなりそこにあるのは、忘れがたい通販広告――「モザイク除去機」。アダルトビデオのモザイクを消してくれるという画期的な(?)電子機器。

 使い方は、この「モザイク除去機」をビデオデッキとテレビのあいだに接続し、ツマミをいじるだけ。ビデオのコピーガードを除去したりできるスイッチもあるのだが、位置移動のレバーで画面上のカーソルをモザイクの位置に合わせ、調節ツマミでいろいろいじくる。すると、モザイクが消えたようになり、くっきりと元の像が浮かび上がる、はず…。
 

これが噂の「モザイク除去機」


 この「モザイク除去機」はなんと、税別価格39,800円。5千円くらいで買えそうな代物だが、通常価格はもっと驚く98,000円
 半額以下、59.4%の割引。いやあこの業者さん、かなりサービスしてくれて、お客さん思いの親切なメーカーだわぁ――なんて思う人はたぶん…いないだろう。圧倒的に怪しいのだ。とてつもなく怪しい。とはいえ、頭の中で一気に妄想が始まってしまうのも確か。
 
 持っているあのビデオのモザイクが消えてくれたなら。もしモザイクが本当に消えて、そこに映っているものがはっきりと見えてしまうのなら?

 これをなんとか手にしたら、明日から楽園の日々が始まるのだと思うと、矢も盾もたまらなくなる。39,800円なんて安いものだ。えーい、はたいてしまえ。俺は見たい。アレが見てみたいのだ。モザイクなんて、消し去ってくれ!――と、うっかり大金をはたいてしまった男性は、五万といたはずである。
 

●元の映像は復元できない

 ところがこれ、実際に使ってみた人の話をネット上で見たのだが、やはりインチキなものらしい。
 よく考えてみればわかるのだ。アダルトビデオの編集の段階で、モザイク加工処理(ピクセル化し、解像度を下げる)を施す。見せてはいけない部分の映像を、意図的に加工処理して出力しているわけだ。
 つまり、出力した時点では既に、元の映像を隠しているのではなく、「消えている」(=非可逆変換処理)のだった。
 
 人の心理というか観念上では、ついそれを、モザイク処理で「元を隠している」ように思ってしまうのだが、そういうことではない。実際的には、元の映像をすっきり荒くして消してしまっているのである。だから、復元はできない。どう足掻いたって何をしたって、元の映像を復元することは不可能なのだ。
 
 ただし、この「モザイク除去機」は、技術的にいうと、カーソルで移動した部分をさらに変調回路で加工処理し、モザイクっぽさをなくし、ぼかしている。見る人は、一瞬モザイクが消えてる? と思うかもしれない。しかしよく見れば、元の映像が復元されたわけではない。あくまでぼかしているだけで、モザイク感が薄れただけのこと。何度もいうが、元の映像は既に加工されて消えているのである。
 「モザイク除去機」は、男の欲望を掻き立て、「見えてはいけないもの」をあなただけ「見える状態にしてくれる」名機――といったありもしない妄想を抱かせてしまう、恐ろしいぼったくり玩具なのであった。
 

これはいったい何なんだ「極秘ビデオ」

 さらにもっとシンプルに怪しいのが、この広告だ。クリエイト・コンピューターさんが無料贈呈(?)する「極秘ビデオ」。なんと22,000円「極秘ビデオ」がタダでもらえる、というのである。
 

私も当時、何度目にしたかわからない「極秘ビデオ」の広告

 
 この広告、クリエイト・コンピューターさんの《ご愛顧ありがとうキャンペーン》なのである。《極秘ビデオのメーカーだからできる新作ビデオ(定価22,000)円をハガキ・デンワ・FAX1本で無料贈呈》
 
《新作の極秘ルート作品が完成。今期の新作が今なら無料。極秘ビデオ22,000円(シュリンク加工・美麗ケース入)ですが、ハガキかデンワFAX下さい》
 広告ではこのように、新作の「極秘ビデオ」だと謳っている。

 ハガキに、こう書けばいい。《定価22,000円の極秘ビデオの無料贈呈用現物資料送れ》。それを郵送すると、そのうち「現物資料」が届くらしい。

 こまかく読んでいくと、こんなことも記してある。《今、クリエイト・Cへ入会すれば、定価22,000円の最新作「極秘ビデオ」を無料で贈呈致します。無料だと言っておいて、後からお金を請求するとか、返品の必要は、全くありません。今回の極秘ビデオを無料でもらったからと言って、何の義務・責任もないのです》。さらにこんなことも記している。なぜこんな無料キャンペーンを打つのか? 《それは、この作品の出来ばえと、あなたが想像する秘密ビデオ、極秘ビデオと同じものかどうかを無料で確認してもらいたいからなのです》
 
 品切れになり次第、打ち切るのでできるだけお早めに――。
 

●私も「極秘ビデオ」を見たことがある

 さあ、どうだろう。男の欲望が無分別に掻き立てられは、しないだろうか。「極秘ビデオ」が見たい。「見えてはいけないもの」が、はっきり見えるビデオではないか。それってつまり、モザイク有りのアダルトビデオのことではなく、無修正のアダルトビデオ(=裏ビデオ)なのではないか。それをなんと無料で送ってくれるのではないか。
 そういう妄想に芽生えるはずである。男なら、誰しもが抱く夢だ。
 
 しかしながら、何が届くかお楽しみ――としかいいようがないのであった。インチキなものかもしれない。あるいは案外、インチキなものではないかもしれない。クリエイト・コンピューターさんがどれだけ信用しうる業者さんかどうか、判別がつかないのだ。
 
 私の経験上、この手の広告に騙されたことも多々あるが、わずかながらの親切心か知らないが、似たような「極秘ビデオ」を送ってくれた業者さんがあった。それは何? とははっきりいえない。
 通常のアダルトビデオを買って買って買って――で月日が経つ中、ある日突然、それは送られてきたのだ。まさにそれは、「極秘ビデオ」と類するもの。私としては突然でとてもありがたかったビデオ――だった。
 推測だけれど、クリエイト・コンピューターさんが「極秘ビデオ」といっているモノは、あるビデオ商品の、カタログ的「サンプルビデオ」だったのではないかと思う。私もそれに類するものを手にした時、当時若かったから、しかも映像でそれを見たのは初めてのことだったから、たいへん感動したのを憶えている。
 すなわち私はその時初めて、拝むくらいに縁起のいいものを、見たのだった。「見えてはいけないもの」をはっきり見せてもらったのだった。
 
 これ以上のことは突っ込まないでほしい。あなたの欲望を掻き立て、男のロマンの集大成(?)である「極秘ビデオ」は、90年代において、すこぶる輝いていた――ということである。

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