人新世のパンツ論〈花鳥風月編〉
ちょっとしたスポーツをするのでもなく、ただ「寝る時」に穿きたいパンツ(アンダーウェア)を選ぶとしたら、それはカルバン・クライン(Calvin Klein)のジョックストラップ・ショーツだった。色は黒。前面はフンドシ型、後ろはケツ割れでケツ丸見えとなる様相。決して“普段穿き”で利用するパンツではない。
ただこれ、どういうわけだかしばらく「入荷待ち」になっていて、簡単には手に入らなそうだった。ということで私は「待つ」ことにした。2025年11月――。これがジョックストラップとの、スタートアップ的なエピソード。
パンツを穿かない主義
ところでこれ、どうしてそんなケツ割れのパンツがいいのかといったら、正直私、「寝る時」はパンツを穿かない主義――なのである。
ええ? ほんとですか?
日本人ならこういう人を軽蔑しやしないだろうか。おコメを食べるのも「主食」なら、常にパンツを穿くことも外せないマナーだろうと。
たしかにそうなのかもしれない。しかし、私はいつの頃か気づいてしまったのだ。「寝る時」は、パンツを穿かないほうが、安眠できるのだと――。
上半身はTシャツ1枚、下半身は生まれたままの姿。でもさすがに、冬は寒いので、なんとなくもう少し、開放感のあるパンツがあるのなら、それを穿けば多少寒さを和らげられるかなと。
そういう理由で探し始めたら、やっぱり他のどんなものより、カルバンのジョックストラップがいちばん理に適ってるし、かっこいいと思えたのだ。
理に適う、パンツ――。そうか、そういうことだったのか。
男の調子を上げるパンツ
これまで文藝ブログの[Utaro Notes]で投稿してきたシリーズ「人新世のパンツ論」(特別編含む)は、男性が穿くパンツ(アンダーウェア)の「おしゃれ」や「穿きこなし」を主眼にして考察し、他人にちょい見られることを意識した下着選びや歴史などに触れてきたように思う。子どもの頃、白のブリーフなんて恥ずかしいと思っていたが、これってちゃんと穿きこなせば恥ずかしいことでもなんでもないよ、実は本当はかっこいいパンツなのだよ、といったぐあいのことも。
これから投稿していく〈花鳥風月編〉の大きなテーマは、「男の調子を上げるためのパンツ」とはいったいどういうものかについて。調子を上げるっていうことが、男性にとって生涯どれほど大事なことなのかをさぐる。
つまり、男性にとって、けっこう切実なことがあるのだ。
それは、男性部が元気でいなきゃいけないっていうこと。男性部は健康のバロメーターだったりする。巷では遠回しにそれを、「男の活力」といったり、「男の精力」といったりすることもあるのだが、要するに男性は、元気にアレが「勃起する」ということを、自己肯定感の最大の一つとしているのであり、それが、「男の調子を上げる」ということの意味。
これには反対意見もあるだろう。男性部が元気でなきゃ、男ではないのかと――。この「男の調子を上げる」ということと、男性性との関係についても今後ふれていきたい。私は古い価値観や観念のままの、男性性を復古させようとはこれっぽっちも思っていない。
ムックリが普段あるからこそ
女性にとって興味深いことかもしれないが、男性は毎日、そして逐一、アレが勃っている。勃起している。理由は様々なのである。
男性部はムクムクと大きくなり、硬く、血管が浮き出て赤みを帯びた状態になる。萎んでいる時とは、全く形状が異なる。そういう時が、一日のうちに何度かある。でも、30代の後半から40代以降になると、めっきりその頻度というか回数が、減ってしまうのだ。これにも、様々な理由がある。
こんなふうに「毎日、逐一」、「勃起している」なんて書くと、これを読んでしまった一部の女性からは〈なんて卑猥な話なの!〉とか、〈青沼ペトロなんて、すごく下品な人ね〉――なんていう心の声が上がるかもしれないが、私はこの場で下品なことをつらつらと書いていくつもりはないし、内容はいたって真面目な話である。男性にとって「勃起」が毎日あるのと、時々しかないのと、全く無くなってしまったのとでは、人生にどれだけ影響を及ぼすことか。それを想像してみてほしい。
男性の中でそれを殊更表明する人はまずいないだろうが、〈今朝はしっかり勃起したな〉と確認できたことで、その日一日の態度なり勤労意欲なり勉学なりに励みや勢いが増すのである。それがなかったりすると、〈あれ? 今日は…〉とちょっと不安げな気持ちになる。勃たないのが連日続くとなると、男性というのはけっこう落ち込んで気勢が感じられなくなるのだ。つまり、その人の自己肯定感の根幹が、妙に自信なさげになってくるというくらいに、大変なことなのだ。
パンツは見た目と機能で自分を回復する
いや、本当は逆説なのである。元気がないから、「勃起」しない。調子が上がんないから「勃起」しない。でもそんな時こそ、パンツの役目ではないのか。パンツがもっと男性部をケアし、「勃起」を促してくれるのであれば、それは「理に適ったパンツ」ということであり、男の調子が上げられる機能的なパンツといえなくはないだろうか。
いわゆる幸運のパンツ。運気を授かるパンツ…。そんなパンツが有るのか無いのか、そのことについてしっかり考えてみるべきではないかと私は〈花鳥風月編〉をスタートさせる。
男性部がおとなしくしていてほしい時のパンツと、逆に男性部が活動的であってほしい時のパンツというのもあるはずだ。
究極的にいえば、男性にとっていちばん大事なことだと思うのだが、長い人生の中で、できうるならED(勃起不全)を避けること。それに陥らないこと。あるいはそれに陥っても、救済のパンツに出合えないかということ。それに尽きる。
この〈花鳥風月編〉は、男性用アンダーウェアとして最も慎重な部分の、真に迫りたい。「調子を上げるパンツ」と、男性性の観念との深い関わり合いについてもふれていく。たぶん、驚くべき結論が待っているかもしれないのだ。
これ、すなわち、最大にして最上級の、「人新世のパンツ論」なのである。