Common phrase
『婦人公論』(中央公論社・現中央公論新社)1969年7月号の特集は、「適齢男性」。
社会人となって適齢期を迎えた男性の恋愛観や結婚観を、圧倒的に多いであろう女性読者に向けて開示した面白い記事のオンパレード。
この特集「適齢男性」の中で、作家・評論家である塩田丸男氏の「男女関係常套句辞典」という記事が、5ページにわたって掲載されていた。今回はこれを紹介する。
塩田氏は冒頭でこう述べる。
《「女に対する時、あらゆる男は詐欺漢になる」という箴言がある。どんな愚鈍な男でも、愛する女を手に入れたい時には、一世一代の知恵を働かせて、ペテン師そこのけの詐術的セリフを吐くものだ、という意味である。
女にむかっていう男の言葉には、必ず裏がある。用心しなければならないトゲがある。男が、どんな場合にどんなセリフを吐くかを知ることは、女性にとってももっとも大切な知恵だ》
この記事に載っていた男女関係常套句をいくつか例に挙げ、まあ、男としては、多少沈鬱な気分になるのも吝かではないが、その吐き出される常套句から男性心理を探ってみたいと思う。
催眠術型と誇大広告型
「きみは、寝顔もとても可愛いだろうな」
「きみの花嫁姿って、とてもきれいだろうなあ」
下心丸見えの常套句である。
いわずもがな、“寝顔”はベッドインを妄想し、“花嫁姿”は結婚したいかも…という願望をあらかじめ考査した発言になっている。どちらにしても、相手に好意を抱き、肯定しているのである。
しかし、これはストレートないい口といっていいもので、モゴモゴ、ゴモゴモと何をいっているのかわからない性格の男よりは、マシだと思う。わからないより、わかりすぎる男のほうが、合理的で話は手っ取り早くていい。相手に魅力があればの話だが。
魅力がなければ、これらの常套句は、“オンナと寝たいだけの男”として軽薄の極みとなる。その分、破談もインスタントで済むから分速で別れられるだろう。
「きみのこと、ずっと前から知ってるみたい」
「あなたとは、どこかで一度お会いしたような気がします」
運命論者の男は、大抵これを吐く。「前世じゃたぶん、恋人どうしだったと思うよ」というのも同じ。
自分の力量だけでは結び目が弱いので、神や仏や霊の力を借りて結ばれようとする魂胆であり、女性は見抜いてほしい。「風水によると…」ということばを吐く男は、もうペテン師といっていい。
搦(から)め手型と情報収集型
「ぼくァ、駄目な男なんだ」
「僕って、きみが思っているような善人じゃないよ。今までつきあった女性にだって、今から思えば、ずいぶん罪なこともしたし…」
自分には何の価値もないことをわざとひけらかす常套句。
母性愛をくすぐり、あなたはダメなんかじゃないわよ…と女性が返してくれるケースはごく稀で、そのまんま、時価で決済されてしまうほうのが多い。ダメな男なら、やめとこ…って。
男としては、この手の常套句は避けたほうがいい。
罪なことをしてきた“償いプレイボーイ”に憧れを抱く女性は、湘南あたりには昔いたかもしれない。だが今どき、危ない橋はわたりたくないと思う女性のほうが圧倒的に多いはず。あなたはダメなんかじゃないわよ…と一応はいっておいて、女性の側の本音は、既に見切ってしまっているのである。
ただし、この常套句は、男性がつい口にしてしまう気弱な愚痴にすぎず、本質的に男はみな、このタイプである、ということだけは、女性は知っておいてほしい。
「きみの子どもの時の話、聞かせてくれないか」
本当のところ、男は女性の子どもの頃の話など、しごく退屈で、あくびが出るほど聞きたくないものなのだ。
が、関心があることをほのめかすために、わざわざこういう常套句を吐く。したがって女性は、3分程度に遍歴をまとめ、可愛らしいエピソードに仕立ててほしい。そうすれば、男はさほど退屈せずに済むのである。
呼び込み型と肉体志向型
「きみ、僕のこと、どう思う?」
「いま、僕が何を考えているか分かるかい?」
最近やたらSNSで「?」をつける疑問・質問形(系)のポストが増えている。つまり、全部これ。自分の関心を呼び込むタイプの人の、常套句である。
また、普段無口で女性とうまく話ができない人は、会話の最後に全て疑問符をつけてみるのがよろしい。「コーヒーがいい?」「ポケモン集めてる?」「お腹すいた?」「眠くない?」「次の講義は何時?」――。
もう何でも「?」をつけちゃう。
「大谷選手が出てるWBJ?」「違うよそれ、WBJは漏電遮断器のことじゃね?」…。こうすれば、会話は楽しくどんどん弾む。
ちなみに、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のチェコの代表で、現役高校生選手がいた。マックス・プレイダ(Max Prejda)君である。ポケモンと書いたので、ポケモンの“マックスバトル”でふと思い出した。
「きみの髪の毛の匂いって素敵だよ」
「きみの耳、食べちゃいたいみたいに、可愛いね」
ネコに耳でも鼻でもかじられた経験のある私としては、好きな人の身体の一部をかじりたいという心境はよくわかる。
ただ、これが常套句として用いるとなると、怪訝な表情で返されてしまうこともある。
「わたし、怒涛の風呂キャンセル派だし、臭いし、たぶん不味いと思うよ」